「電線絵画」展

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先日、練馬区立美術館で「電線絵画」展を見てきた。
再び松田さんと一緒に。

 

以下、感想。

・まず、電線とは何か?電柱とは何か?という用語の定義が最初にあった。新しい試みでは展示の仕方も手さぐりになっていて興味深い。

・さいしょ、「電柱絵画展」とかってにタイトルを勘違いしていた。正しくは「電線絵画展」。微妙な違いだけれども、注目する対象が微妙に異なってくる。
・電線は電柱と共にある。
・電線と鉄道の関わり。当初から鉄道と電線は並行して作られていた。日本最初の鉄道(新橋~横浜)の錦絵にも鉄道沿いに電線がある様子が描かれている。
・2003年の「鉄道と絵画」展にも出されていた絵画がいくつもある。
・電柱・電線はマッス(量塊)というよりもシルエット(影絵)としての魅力。

日本碍子の博物館から借りてきた碍子を陶芸美術品のように展示するコーナーが面白かった。文脈を変えてみると博物館の収蔵品が違うものに見えてくる。

 

帰宅したら『アニメ建築(原題:Anime Architecture)』という本が届いていた。ドイツ人のキュレーターStefen Riekelesという人が、80年代以降の近未来SFアニメの背景美術を、「未来都市の建築」という観点で編集・解説したもの。洋書が先に出ていたが*1、テーマがどストライクな本なのでとても気になっていた。今年になってから廉価な日本語版が出るということで、発売前から予約しておいた。

 

AKIRAからパトレイバー攻殻機動隊など、作品の枠を超えて連綿と受け継がれるアニメの「建造環境」が浮かび上がってくる。出版物として纏めるにも、版権処理には相当な手間がかかりそうで、日本人でないドイツ人の筆者だからこそ出せた本と言えるかもしれない。2000年代のエヴァンゲリオン新劇場版の背景レイアウトも入っている。


さらに、庵野監督がかなりの量を撮影・収集しているという電柱と電線の写真の一部が掲載されていた。2006-2008年のものが十数枚*2。おそらく何かの媒体ですでに発表されていると思うけれども、自分は初見であった。このまま映画のカットに使ったであろうコマもいくつか見られる。資料と言う割には本格的な撮影で、庵野監督の撮影技術への造詣の深さを推し量ることができる。映画のスチル写真を意識しているようであった。

 

電柱の美学を論じるにあたって、とくにここ20数年は庵野監督の作品の影響は無視できないというのは、自分の周辺の世代では半ば「常識」である。しかし、「電線絵画」展にはそっち方面にはとくに言及はなかったのが少々気になった。展示後半を占めていた山口晃氏などの近年の作家が意識していないはずはないと思われる(つまり、明治以来の近代の象徴としての電柱が、現代の作家に連続的に継承されてきた、という歴史観には同意しかねるということである*3)。そのあたりのモヤモヤも、この『アニメ建築』の本がうまく「補完」してくれた。

 

「電線絵画」展は、今週末18日がラスト。この記事を書いてる時点であと2日あるので、興味のある方は見に行っておいていいでしょう。

 

(ところで、ブログで記事を書くのが久しぶりすぎて、どのように書いていたのかをさっぱり忘れてしまった。たどたどしい文章しか出力できなくなっている。昔は溢れるように文章が出てきたのだが・・・脳の使い方の習慣が変わっているというのはあると思う。画像やイメージにこだわり続けていると言語領域がすっかり休眠してしまう)

 

*1:昨年秋に出版されたハードカバー本なのに、すでに119件もレビューがある。https://www.amazon.co.jp/Anime-Architecture-Imagined-Endless-Megacities/dp/0500294526

*2:2020年代の今から見ると電柱や街並みもどことなく懐かしさがある。電線や電柱の素材も日々進化しているからだろうか。

*3:また、戦後の高度経済成長期以降、電柱が風景の美観を損なうものとして嫌われていく過程というのも提示しないと山口晃氏の作品の意義も十分に理解できないのではないだろうか?